2008/05/22 (Thu) 21:05
「es」

es[エス]es[エス]
(2004/03/03)
モーリッツ・ブライプトロイ

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改めて観てみたんだけど、何度観ても衝撃的だわね。

募集された一般人を「看守」と「囚人」に分けて、刑務所に見立てた密室空間でお互いそれぞれの役割を演じさせるのだが、徐々に看守による囚人統治がエスカレートして…というお話。アメリカの大学で実際に行われた実験をモティーフにした映画だそうな。

看守側のリーダーは非常に小心な男で、それゆえにその体制を維持するために残酷にふるまうことができる。それ以外の看守たちは、権力側(リーダー)に阿るイエスマンと否定的に感じていても従順してしまうものに大別される。極限状態で自我を維持するのは難しく、その思考を放棄してしまうのだろう。少なからず存在する反乱分子は徹底的に排除してしまう。この「徹底的」ってのは、残酷になれるかどうかが肝要。臆病な統治者にはそれができてしまう。このへんの構図は、ヒトラーとか毛沢東とかクメール・ルージュとかと同じ。ドイツ映画だから、ヒトラーをイメージしているのかな。ただ、これはさまざまな全体主義機構に適用することができちゃったりするので、それが歴史的な悲劇・惨劇を生み出していると言える。日本においても、天皇の御名のもと、という旗印の下で多くの人命や尊厳が損なわれてきたわけだしね。思考停止ってのはほんとうに怖い。それを生み出すものは人命にかかわるような極限状態で、これを忌避するためにも僕らは知識を得ようと志すわけだね。アンテナの感度を高めるために。

それにしても戦慄走る映画だわね。また観ちゃうな、コレ。

2008/05/17 (Sat) 21:32
「モンドヴィーノ」

モンドヴィーノモンドヴィーノ
(2006/04/21)
ドキュメンタリー映画

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ワインにおけるグローバリゼーションのお話。グローバリゼーションっつーのは、世界レベルでのモノや考えの均質化・均一化を表すものでもあろう。それがワインからテロワール(地味)を奪ってしまった、と作者は憤怒するわけだね。そーゆーお話。

グローバリゼーションという概念のもとでは、国境を越えてモノが行き来するので、モノのサプライヤーは概ね物価の安い新興国側になるのが通例。だから、先進国の生産者はその脅威に常にさらされてしまう、という構図を生み出す。

ワインの業界でもそうだ、ということを作者は例示している。後進のアメリカのワイン生産者が市場を拡大するためには、フランスを筆頭とするワイン先進国の伝統を覆す(その価値を貶める)必要があった。それがロバート・パーカーに代表されるワイン批評家の役割となった。彼に評価されないと売り上げが伸びない、そのような構図を、年月を経て作り上げた。そして、もう一人、彼と手を組んだのはワイン醸造家のミシェル・ロラン。彼の勧める醸造法を採用した生産者のワインをパーカーがメディアで絶賛する。逆に、そうではない生産者のワインは酷評する。さすれば、売り上げに劇的な差違をもたらす。すると、売り上げの伸びない生産者は、たとえその地がボルドーであれブルゴーニュであれ、ロランに指導を求める。このようにして、彼らはワインの均質化を敷衍させることで伝統の壁を取り除き、その市場をアメリカの外へ拡大することに成功した。グローバル・スタンダードという名を与えてアメリカン・スタンダードを押しつける彼らのいつものパターンである。これを彼らは「民主主義」と呼ぶわけさ。

世界のどこでも同じオークの新樽を用い、バニラエッセンスで香りを付与し、染料で色濃いワインを作り上げる。最近はボルドーであっても熟成期間を要しない早飲みワインが主流になった。これも均質化である。そこにはテロワールは存在しない。そこを作者は嘆いている。それは理解するし、寂しいことだとは思う。

一方、グローバリゼーションによってテロワールが損なわれるパターンはさまざまな業界でも見ることが出来よう。たとえば、僕が関わった木造住宅の世界なんかでも、構造材はカナダ産、化粧材はパイン等の白木や東南アジア産の堅木なんかが好まれる。国産材では桧や杉なんかが採れるんだけど、一般のユーザーには採用されない。原因として西欧、北欧のスタイルが好まれるからってトコもある。まあこれも価値観の均質化がもたらすものでもあるんだけど、コスト面からというトコも大きい。原材料の価格が違う上に、新潟から東京にトラックで運ぶより、カリフォルニアから東京にタンカーで運んだ方が流通コスト安いんだもの。トータルコストではいわずもがな、である。

そう、問題はコストなんだ。テロワールを重視すると、そこには生産者の生活水準に近いだけのトータルコストが与えられる。それを許容するかどうか、できるかどうか、の話なんだろう。先日、ロバート・モンダヴィのデイリーワインを飲んだ。一本880円のデイリーワインとしては十分楽しめる味だった。一定水準をクリアして価格も安いのであれば、それはたちまち世界を席巻するだろう。「世界の工場」として劇的に経済成長を遂げている中国も、生産技術を有している先進諸国と手を組んだからこそ、その成長が成り立っているわけで、その存在は僕らの生活を確実に助けている。グローバリゼーションそのものを否定しても仕方ない。テロワールを大事にしたワインはたとえ美味しくても一本で一万円もしてしまっては、週に2,3本飲む僕には手が出ないよね、たとえ美味しくても。たとえ、そこに生産者の矜持が内包されていたとしても。

ただ、こういった考え方でテロワールを否定してしまうはあまりにも味気ないし、あまりに寂しい。レクサスとオリーブの木、って区別されるもの、そのどちらを選択するかと問われれば、結局僕はレクサスを選ぶんだろう。で、どちらが嗜好にあうか、と問われれば、オリーブの木なんだろう。グローバリゼーション、と聞くと、いつも嫌な気分になる。けれども、自分の生活そのものは全身でその恩恵に浴している。しかしながら、同時にお金に支配される生き方には抵抗を覚えるのは人間の性。誰しも譲れない自分のテロワールであったりオリーブの木であったりを有していたい…そういう願望はあってしかるべきだし、それを堅持するべきだろう。そういう意味でも、経済的価値の外にあるものに触れるように意識して行動しようか、とか改めて考えた。たまに飲む高いワインは、雑誌の評価が高いものではなくて、テロワールを重視した頑固親父の作ったものにするとかね。

とりあえず、この作品に出てきた詩人のようにワインを作る醸造家・エメ・ギベールの作ったデイリーワイン「フィガロ」あたりの手頃なトコから試してみるか。グローバリゼーションの味がしたらどうしよう…まあ大いにあり得ることなんだけど。

2007/12/06 (Thu) 16:33
「赤い人」

赤い人赤い人
(1984/01)
吉村 昭

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うーん、これはすごい…。まさに事実は小説より奇なり、だな。

著者・吉村昭氏は、北海道開拓史を丹念に取材し、その中でも集治監の歴史に着目し、その史実を時系列に沿って記してこの本をまとめた。それだけでこの話が十分な物語性を有しているということは、それだけ明治の時代、とりわけ黎明期の北海道開拓において、現代からは想像の及ばない苛烈なときであったことを雄弁に物語っている。

当時の監獄に対する政府の概念は「懲罰主義」。‘囚人=暴戻の悪徒’だから、こき使って死なせれば、有益な事業が遂行できる上に国の負担も少なくなる、って寸法。わかるんだけど、なんてプリミティブなロジック。そりゃ、「悔悟主義」の西洋諸国が治外法権を求めるわけだわな。それで、未開の地であった北海道開拓の使役として重罪囚徒が放り込まれたわけだけど、そのロジックからすればその扱いが酷いわけだから、当然多くの犠牲者が出る。その言語を絶する犠牲の上に、北海道に道が通り、産業が興ったわけだ。現代に生きる僕らには、密生林の行軍や炭坑での掘削作業、餓死や凍死には縁もないわけだから、その苦行は想像の及ぶところではないのかもしれないが、死と隣り合わせであったことは想像できる。そうした囚人たちを管理する看守たちが自分たちの生殺与奪を握っている現実から、彼らに憎悪の念を抱く囚人たち。看守たちも、貧しい中で自分の家族を守るために、命を賭して職務を遂行する。囚人の中には、単純な凶悪な犯罪を犯した者だけでなく、維新の際に旧幕府についた藩士がおり、一方では倒幕に与した藩士は官吏の役を得て看守となった。その劇的な対立。なんという緊迫。なんという不条理。あー、現代に生まれてきて良かった。

とまれ、久々の衝撃の一冊。一昨年の北海道旅行でスルーしてしまった網走刑務所なんかも、知識を得てから訪れたならば感慨深いものになったのだろうな。次回には是非。それから、過酷な環境にインフレが重なり定着者が少なかったために官費で開設したというすすきの遊郭にも、札幌大(旧農学校)のクラーク博士像と同じような心持ちで訪れなければなるまい。うん。

2007/11/01 (Thu) 16:21
やるやん、ディカプリオ

評判の『ブラッド・ダイヤモンド』を見た。

ブラッド・ダイヤモンド (期間限定版) ブラッド・ダイヤモンド (期間限定版)
レオナルド・ディカプリオ. ジャイモン・フンスー. ジェニファー・コネリー. カギソ・クイパーズ. アーノルド・ボスロー (2007/09/07)
ワーナー・ホーム・ビデオ

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『ホテル・ルワンダ』『ナイロビの蜂』『ラストキング・オブ・スコットランド』『ダーウィンの悪夢』とまあ、最近の映画界はアフリカブームのようなんだけど、知られざる第三世界に目を向けさせることに意義は確かにあるわけで、私も背景について興味を抱きながら鑑賞している。

グローバリズム・ヒエラルキーの最下層であり、構成要員の監視の行き渡らないアフリカ大陸のほとんどの国においては、資本主義の持つ本質的な暴力が顕著に現れてしまう。グローバリズムの長所でもある「情報伝達のグローバル化」がもたらす、知り得なければ決して抱くことはない「憧憬」が、人間の弱い部分を突き動かし、人々を悪魔の化身に変える。その様式を利用し生じた彼らの混沌や苦悩を礎とした上に、彼らの流した血の上に、先進国に住む私たちが繁栄を謳歌する。そこに己の意識があるなしにかかわらず。

この作品では、ダイヤに群がる白人とそれに汲みして自らの出自を払拭しようとする黒人、混乱の中にあっても家族の絆をもっとも大事なものと位置づけそれを守るために命を賭す黒人の漁師の姿が、実に対照的に描かれている。ひとは何を大事にするべきなのか?という主題だ。

先進国に住む私たちも結局のところお金に支配されている。私自身、「もっとお金があったらいいのに」とは思うけど、少なくとも現状の生活に不満はない。ただ、自分の欲望を少し制御すれば事足りるのだ。だから、私が悪に走ることはない。ゆえに、その境遇から抜け出したいと悪に手を染めるアフリカの人々に思いを馳せるとき、その根源である「貧困」というものの正体に対して実感がないことに思い至る。私たちは圧倒的に恵まれている。「貧困」が人を狂気に追い込むとして、そのような極限の状況下で、人間というものはその本性を見せるのだろう。「人間の本質は‘カニバリズム(肉食=人食い)’」という考えがある。史実をたどるとそうなのだろう、と思わないではいられない。戦争、中国の文革、クメール・ルージュ、阪神の震災それぞれで行われた非人道な行為…。万一、私が極限の状況に遭遇してしまった際に、己は己の良心に基づいて行動していて欲しい、そう願うことが私を読書や映画鑑賞に対する動機のひとつになっているのだな、と再認識させる骨太な作品。

脚本がうまく練られており、伏線を張り巡らせ、終局へ導く様はお見事。主人公の正体を掴むのに四苦八苦する分、ラストの感動はひとしお。巧いねえ。単なる恋愛描写に展開しなかったところもカッコいい。また、ディカプリオの演技が予想に反して素晴らしかったので記しておく。彼のそれまでの出演作は、彼の演技が浮ついているように感じられたので評価が低かったのだけれど、彼のあまりの成長ぶりにすっかり見直してしまった。そうだよなあ、ハリウッド・スターでさえ、日々の精進を怠らないのだから、凡人の私はもっと頑張らないといけないよな。ジャイモン・フンスーともども、好演かつ怪演でした。感嘆。

2007/09/15 (Sat) 12:38
映画鑑賞記

最近観た映画をまとめて


バッテリー バッテリー
林遣都 (2007/09/07)
角川エンタテインメント

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「投げろや、巧。ワシがぜんぶ受け止めちゃる」

孤高の天才野球少年・巧が、包容力豊かな剛と出会い、徐々に周囲に対して心を開いていく成長の記録。

最初に映画化の話を聞いたときは、「巧のイメージを具象化するのは難しいんじゃないかな」と思ったものだが、それを良い方向に裏切ってくれた。主演の林遣都くんに出会ったときに滝田カントクは映画の成功を確信した、と述べたそうだけど、うん、納得。イメージに合致してた。ストーリーの終盤に見せた表情は、快心の笑顔ではなくて、もっとクールな笑みであった方が良かったが、まあ映画の方は原作と違って、剛以外との人間関係も重視しているので、これはこれで納得できる。原作のファンにも原作を読んでいない人にも、楽しめる作品じゃないかなあ。これってなかなか難しいはずなんだけどね。良作。

おもしろいのは、天海祐希演じる母親。病弱な青波を徹底的に保護し、自分の意志で自由に振る舞う巧を憎み、非難する。その感覚は私には理解できないのだが、映画を観た女性に聞くと、「大半の女性は同じように行動してしまうんじゃないかな」とのこと。確かにウチの嫁さんもそうするだろうなと合点。女性はやっぱりありがたい存在だよなあ、と。


深呼吸の必要 深呼吸の必要
香里奈、谷原章介 他 (2005/01/28)
バンダイビジュアル

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トウキビの収穫の手伝いにそれぞれに心に傷を抱えた若者が沖縄の離島に集まるというお話。「非日常」=「深呼吸」として表現しているわけね。「深呼吸をしても状況はなにも変わらないけど、でもきっと楽しくなるから」。そゆこと。でも、このテのできすぎた青春話はチと苦手。


ナイト ミュージアム ナイト ミュージアム
洋画 (2007/08/03)
20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン

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うだつの上がらない父親が息子に失望を与えないため、自然史博物館の夜警の仕事に就いたのだが、夜になるとそこに展示されていた恐竜や人形に生命が宿るのだった…。

ベン・スティラー好きにはたまらない一作。馬鹿げた設定を心温まるヒューマンドラマに仕立て上げている。ご家族で是非どうぞ、な娯楽作。


それでもボクはやってない それでもボクはやってない
加瀬亮;瀬戸朝香;山本耕史;もたいまさこ;役所広司 (2007/08/10)
東宝

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痴漢冤罪を巡る騒動を描写しながら、現代の裁判制度に異議を唱える周防正行監督の最新作。「まず有罪ありき」の現行制度は、この国の制度を象徴しているし、それは私たちが属する社会を象徴しているとも言える。自分も疑わしきを罰していないだろうか、と心に問いかけ直さなくてはならない。それと同時に、本来、法というものは秩序を維持するための‘抑制’のためのシステムであって、この枠組みと生活そのものとは距離感があって然るべきなんだけど、だんだんその距離が狭まってるんだなと感じざるを得ない。『行列のできる〜』なんてのが高視聴率を上げる世の中はどこか違っていると思うけどね。


約三十の嘘 約三十の嘘
椎名桔平、中谷美紀 他 (2005/06/10)
角川エンタテインメント

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二流の詐欺グループがとりあえずの成功を収めて、その帰途の電車内で繰り広げる騙し合い化かし合い。このテの密室劇には傑作が多い。潜水艦モノが概ねアタリであるように、設定説明に要する時間が少なく、人間心理を描きやすいためであろう。が、この作品の出来は二流どころか三流のそれ。ミステリーとしての質は低く動機も曖昧。なにそれ、勝手にやってろ、な話。


天国の口、終りの楽園。 天国の口、終りの楽園。
ガエル・ガルシア・ベルナル、マリベル・ベルドゥ 他 (2003/03/28)
ナド・エンタテイメント

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メキシコ万歳!!ってのが、見終えてからの感想だったのだけど、徐々に来るね、コレ。しかしながら、その思索の果てに必ず壁にぶつかってしまう自分がいる。日本人は自らを律しすぎるのかもしれないが、それが不要なものではないように思える。しばらく経てから見直したい一作。

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